篆刻とは
篆刻とは、石に篆書を刻すことから篆刻と呼ばれていますが、現代では小篆以外の書体(甲骨文・金文・隷書・楷書など)を刻す場合も篆刻と呼びます。広い意味では印を作ることを篆刻ということができます。
篆刻には刻し方により、白文印・朱文印・朱白相関印などの種類があります。また、使われる用途により姓名印・雅号印・引首印(関防印)・遊印などの種類があります。
年賀状に干支印を捺したり、はがきや手紙などに吉語印を捺したりして日常の中で楽しむのも趣があります。
篆刻作品は書画作品の落款として使用されることが多いのですが、篆刻自体も印影、印材も含めて独立した作品です。芸術鑑賞の対象ともなります。古典の中から自分の好みの言葉を選び、様々な年代の文字の中から適応する文字を探し、石に書いて刻すことは、広範囲の知識と文化を伴う研究が必要な芸術です。
篆刻の進め方
1.選文【せんぶん】(印文を決める)
先ず、印面に刻りたい語句(印文)を決めます。自分の姓名を刻る時は必要ありませんが、詩句を刻る時は、「墨場必携」「中国古典名言事典」等、名言佳句集から探します。
少し慣れてきたら、「老子」「荘子」「論語」等の中国古典の日本語訳を読んで意味を知り、その中から直接自分の好きな言葉を見つけてくるのも良いでしょう。印文は名言や故事成語であることが多いようです。
良い言葉でも作品にしようとすると文字の種類が揃わなかったりすることもあるので、あらかじめいくつかの気に入った印文を選んでおくことが必要です。
2.検字【けんじ】(字調べをする)
印文が決まれば字書を使って文字を調べます。ひとつの印に含まれる文字は原則として同一時代の文字を使います。甲骨文を使うならすべて甲骨文字で揃えます。金文を使うならすべて金文で揃えるというようにです。最初はいろいろな時代の文字が一度に探せる「古文字類編」「漢語古文字字形表」のような字書が便利です。
研究が深くなってくると、文字の時代ごとに編集されている字書が必要になってきます。「甲骨文編」「金文編」「古璽文編」「古璽彙編」「漢印文字徴」「秦漢南北朝漢印徴存」「中国璽印類編」等をお勧めします。
3.印稿【いんこう】をつくる
印稿とは作成する篆刻作品の原稿のことをいいます。
文字の配置や粗密の関係を考えて制作します。篆刻には白文と朱文がありますので、書き上げた印稿が出来上がった篆刻作品の印影の状態を表すように書くとわかりやすいでしょう。
印稿は何度も修正しながら細部まで丁寧に書きます。特に起筆、終筆の部分は注意して書くようにします。朱色と白色のポスターカラーを使って印稿を書くと完成した作品に似た印稿が書けます。
4.印面を整える
印材には表面にワックスがかかっていることが多いので、耐水性サンドペーパーを使って印面を整えます。最初は♯500~♯600で、次に♯1000~♯1500で整えておきます。
5.布字【ふじ】(字入れをする)
印面を整えた印材に印稿を見ながら裏返しに文字を書きます。
白文は、印面を朱で塗って墨で文字を書き入れます。朱文は、印面を墨で塗り、朱墨で文字を書き入れます。印稿を反転して書き入れます。印稿を印面に直接転写する方法もあります。
6.印刀で刻す
白文の刻し方
白文は印材に印泥を付けて押したときに文字が白くなるので白文といいます。
文字の一画を上下(または左右)2方向から刀をいれて刻していきます。内側に界格(仕切り線)のある場合は界格も刻します。(写真参照)(写真は見えやすいように印面に墨を塗ってあります)
朱文の刻し方
文字の部分を残して刻します。
辺界(印の周りの線のこと、辺欄ともいう)の部分も残して刻します。丸い印の場合は方形の印材の四隅を落として刻す場合もあります。
この場合、四隅に印泥が付くと綺麗に捺すことが出来ませんので、斜めに彫り落しておくといいでしょう。
7.水洗いする
印が刻り上がったら、印面の朱と墨を水で洗い乾かします。
8.押印【おういん】(試し押し)
厚手のガラス板の上に半紙3枚程度を敷き、その上に用紙を置いて捺すようにします。印泥をつけるときは、左手に印盒を持ち、右手に印材を持って印泥を満遍なく付けます。この時、印矩を使うと二度捺しをすることも出来ます。印を捺したものを印影といいます。(写真参照)
9.補刀する
印影と印稿を比べて、刻り残しの場所や、線質の違うところなどに再度印刀を入れて仕上げます。これを補刀といいます。
自分の理想の印影に近づくまで補刀します。補刀が必要のない場合は特にしなくても構いません。
10.鈐印【けんいん】(印箋に押す)
作品として印箋に捺すときには、印影は上下の中心より少し上になるような場所に鈐印します。印影の左側に印文、制作年月、作者名、制作場所などを書き入れます。印箋の下側に書き入れる場合もあります。
また、印材の側面に側款を刻して、印影の下に拓本を入れることもあります。書き入れと拓本は、両方入れてもどちらかだけでもかまいません。